その手で 20.モナと国語準備室

「みっ、みずしま、せんせい」

 モナは勇気を出して水嶋先生に相談することにした。大切な友達がフリョーに絡まれている。喝上げとか、イジメとか、されてるのかな。ミズを守るのはモナの役目だ。

 職員室でも水嶋先生は丸めがねの奥で柔和に微笑んで、どうしたの? といつものように聞いてくれた。

「そ、その、ミズのこと、なんだけど」

 その話なら、と水嶋先生はモナを国語準備室に案内した。

 紅茶と紙の匂い。私はこの匂いに萎縮する。私は出来損ないで、失敗ばかりだから。ごめんね――お母さん。

 まあまあ座って、と水嶋先生に促される。水出し紅茶に蜂蜜を溶かして出してくれたが、モナは恐ろしくなって水嶋先生の顔だけを見た。

「橋栗さんは、どうしたのかな? 松岡さんのことで相談があるみたいだけど」

 膝を突き合わせて水嶋先生が問う。拍動の主張が激しい。喉が粘つく。でも、言わなきゃ。

「ミ、ミズが、フリョーに、絡まれてた」

 水嶋先生の優しい顔が急に険しいものとなる。

「不良って、誰だか分かる?」

 モナは首を振った。ぶんぶんと結わえた髪が揺れて根本に鋭い痛みが走った。

「じゃあ、どんな様子だったか教えてくれないかな?」

 ゆっくりとした口調で水嶋先生がモナの心を撫でる。落ち着いて、と背中に手を当てられ小さく深呼吸をする。

「金髪で、背が高くて、青いシャツを着ていて、それで、ミズを、ミズを捕まえていた」

 少しの間があって、話してくれてありがとう、と水嶋先生が微笑んだ。

「私の方でも気をつけておくから大丈夫だよ。また松岡さんが困っていたら助けてあげてね」

 助ける。そうだ、モナが助けなきゃ。

――モナの大切な友達だから。