その手で 22.ナイと体育館

 イクとの時間にモナが加わるようになった。以前ならどうでも良かったのかもしれないが、今の私には「嫌だ」という感情がある。イクは私の唯一の人で、それ以外何も要らなくて。そんな大それたことを考える以前に、私は簡単に答えに行き着いた。

 私はイクと二人っきりで居たいのだ。つまり、独占欲である。

 過ごしやすくなった体育館の二階。窓からの明かりは柔らかく、板張りの床がひんやりと私の命を奪った。そう、ここでいい。イクと二人っきりのこの空間があれば。

「なあナイ、モナとは最近どう?」

 またモナの話だ。最近のイクはモナの話ばかりする。

「どうもこうもない」

 短く吐き捨てると私はイクの膝に頭を寄せた。甘い煙草の香り。イクが纏う死の香り。イクに殺されるために生きてきた。きっとこれからもイクのために生きる。瓦礫が降ってきてもきっと私たちは一緒だ。

「そんなこと言うなって。友達くらい作っておけよ」

 やだ、と私はイクの耳に噛み付く。骨のない人体。柔らかくて、固くて、人の味がする。

 なんで友達が必要なのだろう。今まで居なくても生きてこられた。――死んだように。

 もしイクがここにモナを呼んだらどうしよう。それこそ私の居場所はなくなる。そうしたら、また別の「忘れ去られた場所」を探そう。どこでもいい。誰からも忘れられた、私が居なくなったことになる場所を。

「ナイ、ナイ、どこまで考えている?」

 どこまで、と問われて分からなかったので、新しい忘れ去られた場所、とだけ答えた。

 イクが煙草を空き缶に押し込んで私をひょいと抱き上げる。すっぽりと収まった私は、イクの瞳が降りてくるのをじっと見詰めていた。

「大丈夫だ。ここは俺たちだけの場所だ」

 今度は私がイクを求めた。イクがいればそれでいい。けれど、

「ナイ、今日は進路相談会があるから一緒には帰れない。ごめんな」

 季節がもう少し進んだら、ここには、もう。