その手で 25.イクと体育館
「へー、モナの家に行ったか。どうだった?」
ナイは「普通ってなんだろう」とだけ答えた。
「なんでそんな普遍的なテーマに行き着くんだよ、ナイは」
ナイからモナの母のことを少し聞いた。まあ、俺たちが『いいお友達』なわけないよな、と煙草のフィルターを噛みながら俺は苦笑した。
「で、明日も行くんだって?」
ナイは微かな間を持って頷いた。本当にイヤなんだろうな。
でもナイには「人」という居場所が必要だ。
進路説明会では進学か就職か、というありふれた選択肢の話をされた。俺の心は決まっている。ただそれが許されるのか、そこが問題だ。
高校生なんて非力なんだな、ともう一度フィルターを噛んでから深く煙を吸った。
「なあ、ナイ」
俺の肩に預けられていたおさげ頭がこちらを向く。
「俺の嫁になるか?」
ナイは一言、いいよ。とだけ答えた。
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