その手で 34.イクと教室
モナからナイが教室に戻ってきたとメールをもらったので、昼休みにナイの教室に顔を出すことにした。
モナとはあの後、近場の喫茶店でメアドを交換して、ナイとの喧嘩の一部始終を聞いた。モナといいナイといい、人との関わり方が下手すぎないかと頭を抱えたが、だからこそ教室に行くことが難しいのだろう。
なんで俺は教室に行かなくなったんだっけ。
親父が家を出て行って、お袋は精神を病んで、俺の家族はばらばらだった。居ない方がマシだと思ったこともあったが、どうしても離れがたいのが家族だ。手足を縛る桎梏のように。
通学路の自販機で始めて煙草を買った。ライターを持っていないことに気付いてコンビニで買った。そして吸う場所を求めて体育館の二階に行ったんだっけ。
あんな換気もろくにできない場所をよく選んだな、と自嘲した。
でも、あの場所を選んだのは俺だけじゃない。ナイも、あの場所を選んだ。出会うべくして出会ったのだと、俺は信じていた。
いた。窓際で物思いに耽る長いおさげ姿のナイ。たぶん今日もまた死ぬことについて考えているだろう。
ナイ、と呼ぼうとした刹那、
「おーい橋栗の彼氏が来たぞー!」
クラスの男子が騒ぎ立てる。女子がモナの腕を引いて俺の前に差し出す。
モナの耳が、赤かった。
「うるせえ、一年が。俺が用があるのはモナじゃ――」
わらわら騒ぎ立てる一年共。幸せな高校生たち。何も考えていない奴ら。
人並みの先でナイの席を確認する。
彼女はもう、教室にはいなかった。
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