その手で 12.イクと花火大会

 校門前からも花火は見えた。明るくて、美しい。一瞬だけの炎の華。今夜はこの街中の人々が空を見上げているだろう。

 ナイも、見上げているだろうか。

 ナイが来ないまま三時間が経っていた。もうすぐ花火も終わる。ナイのおにいさんがちゃんと伝えてくれなかったのだろうか。悔しくて口の中が苦かった。

 そろそろ帰るか、と俺は神社前の公園に向かう。ナイは今頃家で火薬での死に方でも考えているだろう。

 屋台の片付けだけは頼まれていたので大将さんの携帯に電話をかける。

「大将さん、今から――」

「坂上すまねえ!」

 大将さんの声には焦りが含まれていた。

「ナイちゃんを店で待たせていたんだが気付いたらどこかへ行っちまって……坂上、悪かった」

「大将さんは悪くないっすよ」

「いや、それが俺が余計なこと言っちまったみたいで。坂上の友達とか家族のこと聞かれたから」

 背中に冷たいものが流れるのが分かった。

 俺は「ナイを探してきます」とだけ伝えて電話を切った。

 ナイはどうしているだろうか。嫌な予感しかない。死の淵に立つナイの背中を押してしまうかもしれない。ナイの誤解を解かなければ。俺は自転車をまたぎ、空を見上げる人々の間を縫った。背中でぼーんと、今日一番の花火が破裂した。