その手で 27.ナイと駐輪場
あの日からモナは私に寄りつかなくなった。たまに教室で視線を感じることがあっても無視した。私はまたひとりに戻った。そもそも友達になったつもりもなかった。なのに胸の中に氷の塊ができたような不快感だけが残った。
秋の風が私のスカートをはためかせる。落ち葉が私のローファーを撫でる。
――もしあの手がイクだったら。
そこまで考えて、私は思考を止めようと努力した。触れられるとはどういうことなのだろう。触れられるって何を意味しているのだろう。
胸の中には氷があるけれど、お腹の下の方には熱のかたまりがあった。
なんだろう、これ。
「悪ぃ、遅くなった」
イクが私の頭を撫でる。熱のかたまりが私の頭までやってくる。
これはなんだ?
私は何を求めている。分からない。でもかさかさするイクの手が、私を殺すイクの手が、私に触れるイクの手が、欲しい。
「ナイ、何考えている?」
誰もいない駐輪場。ブルーフレームの自転車が一台。私とイクだけの世界。
秋の夕日が、堕ちようとしている。
「ねえイク、私に触れてよ」
あまりに私の声が寂しげだったのだろう。イクは何も言わず、私を自転車の後ろに乗せた。
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