その手で 37 ナイと体育館(完)

 体育館を正しい用途で使うことは私にとっては珍しいことだった。

 桜舞う、よき日。イクは卒業した。

 並べられたパイプ椅子に座ってこの一年のことを思い返していた。

 イクがいたから、私はこの高校に居続けることができた。

 家族がいなくても、生きていられることができた。

 あの日、忘れられた場所にイクがいなかったら私はどうなっていたのだろう。

 そんなことはどうでもいい。

 ただ、尊い日々だったと、過ぎてしまえば思えてしまうのだと私は知った。

 死んでしまいたいほど愚かでもなく、生きながらえたいほど希望もない。

 そんな世界で彼は私の希望に近いものだった。

 イクのいない学校で、あと二年、私は過ごす。

 でも私はいつだって会いに行く。

 この世界の「忘れ去られた場所」へ。

 その手で、私を変えてくれてありがとう。