その手で 29.イクと坂上家

 ナイと朝を迎えることがあるとは思わなかった。

 倫理的に早すぎるとか、子供ができたら、とか考えたけど、ナイの目は本気だった。抗えなかった。彼女の存在に。

 閉まったカーテンの隙間から朝日が差し込む。腕の中には小さな愛しい人がいる。これを幸せと呼ばずになんと呼ぶのだろう。

 上体を起こして、小さく伸びをする。脱ぎ散らかした服が昨日の熱を物語っている。恥ずかしさと何かしらの達成感に小さく震えた。ナイと、してしまった。いつかこんな日がくるとは思っていたけれど、それが昨日だった。

 ナイの寝顔を見ているとこみあげてくるものがあったので、ベッドを抜け出して窓を開けた。窓際で煙草に火を付ける。深く吸い込むと、ゆっくりとした落ち着きがやってくる。思考を止める魔の煙。いつから吸い始めたんだっけ。

 一本吸い終わると、ナイがごそごそと起き出してきた。ほどかれた髪を鬱陶しそうに肩にかける。イクぅ、と目をこすりながら呼ぶので、俺はベッドに戻った。

「はいはい、ナイはお目覚めですか」

 腰を折って抱きしめるとナイがくちびるを求める。それに応えていると、次第に深いものとなる。

 俺たちは落魄れていく。どこまでも、どこまでも。